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日経流通新聞 2002年11月9日
留学はオーダーメード 「留学図書館」代表 平川理恵

人生の転機を手助け
会員は4歳〜72歳

一人ひとりの要望に応じた「オーダーメード留学」プランを作りますーー。英語の不得意な学生だった平川理恵(34)が、MBA(経営学修士)留学を経て選んだ道は、留学の手助けをする仕事だ。「年齢、性別、資金など、条件的に不利な人にも、是非留学体験をしてほしい」との願いが原動力となり、「留学図書館」という新たなビジネスを築きあげた。

東京・自由が丘の閑静な住宅街に建つ一軒家。ある国の大使公邸だったというだけに、ゆったりとした広間がある。ここが「留学図書館」のメーンルームだ。壁一面をつぶした棚には、英語圏に位置する大学や専門学校、計3, 500校分の資料が並ぶ。

1999年の設立以来仕様してきたマンションの一室が手狭になり、この夏、近所のこの家に引っ越した。館内の部屋を使い、留学希望者の相談に応じ、カウンセリングを行い、手続き代行や渡航前の英語教室を開く。

一連の業務の出発点となるのが相談。世の中には「相談無料」をうたう留学あっせん会社が多いが、平川はあえて「有料」を打ち出している。資料閲覧は会員制で入会金が四千円。カウンセリング料は40分で7,500円から、と安くない。

「一人生を左右する相談が『無料』なんて、変だと思いませんか?」。平川によれば、無料相談業社のなかには、「提携学校」をあっせん、バックマージンをもらうなど、募集代理店的なところが少なくないという。

「私は留学を志す人の選択肢を狭めず、一番いい方法を考えてあげたい。若者であれ、勤めを辞める大人であれ、留学は人生に大きな影響を与える。行く人もそう考えて『先行投資』してもいいと思うんです」

狙いは当たった。発足直後に200人前後だった会員数は現在、4歳から72歳まで3,000人。最近一年間だけで倍増した。地方都市の在住者向けにホームページ上での有料メール相談も手がけ、毎日数人ずつ、新規の相談が寄せられる。

「有料」をうたうだけあり、対応は細かい。時間や費用、目的等を丁寧に聞き、会員一人ひとりの「カルテ」を作成。オーダーメードの留学プランを練り上げる。例えば医療関係の英語を学ぶ「メディカル英語」コースだけで、英国から数校の学校を選択肢として提示。特徴や費用等の比較が可能だ。「カナダの小学校」「ロンドンのアートビジネス」「ガーデニング学校」「日本語教授法」「米国でメーキャップを学べる専門学校」「英国で看護を専攻できる大学院」ーー。平川をはじめ全員が留学経験者という15人のスタッフが集める資料は詳細にわたる。

志願先は学科やコースが決まっていなくてもいい。「異文化を体験したい」など、漠然とした目標で旅立つ人には、またそれに合ったコースを用意する。「語学学校プラスアルファ」など、複数メニューの組み合わせも「得意とするところ」。
「従来は、英語ができれば正規留学、できなければ語学学校、と『輪切り』的な選択肢しかない場合が多い。」アルファは大学の公開講座、料理など趣味の学校、ボランティアなどさまざまだ。

こうしたきめ細かいサービスを求め、集まる会員は多種多様。とりわけ伸びているのが、金銭、時間の両方に余裕のある高齢者層だ。

会員のうち、50歳以上の「シニアサークル」が一割以上の400人強。この層に特化した英会話教室も開く。高齢者の向学心や留学への欲求は強いという。
「かつて留学にあこがれ、あきらめきれない。一度は行かないと死んでも死にきれない、と言う人もいるんです」と平川は言う。

海外といえば添乗員付きのパック旅行しか経験がない。それでも留学を希望する人は増えている。そんな場合は、飛行機を降りて空港を出るまでの道のりから、写真付きでレクチャーする。経験者の話を聞く会も設ける。食事がつらいという人には、日系人家庭へのホームステイを勧める。

「でも世話を焼きすぎないよう気をつけます。放っておかれたいという気持ちは結構つよいんですよ」。小学生だけを集めた海外キャンプといった独自のプログラムも増えている。

日本全国に留学あっせん会社は300社あるとも言われる。「規模で1位になろうと思わない。ただオーダーメード留学に関してはナンバーワンになりたい」と考える。

出発点は自信の留学体験だ。

生まれ育ちは京都。「英語は好きではなく、成績もさんざんだった」。「大学受験不要」を理由に選んだ高校は同志社大学の付属。大学では国文学を専攻し、卒業後はリクルートに入社。転職関係の部署で働いた。

転機は入社4年目。「仕事で出会った人の影響や、もっと視野を広げたい」という気持ちから、留学に関心が向く。

「皆にとめられました。今どき留学している人はたくさんいるし、多少の英語力が武器になるとは言えない。年齢もある」。留学経験者なら引く手あまた、とは言えない時代になっていた。

それでも熱は冷めず、会社を休んで渡米した。留学の下見のためだ。4日間で見学したのは8校。英語も猛勉強し、400点だったTOEFLは、大学院を受験できる
レベルにまでなった。

南カリフォルニア大大学院への留学は社費で一年間。MBAを取得したが、その後1年で退職。有限会社トラベシアを設立して、留学図書館を興すことになる。他人に留学のノウハウを聞かれる機会が増え「人の留学を助ける仕事をしたい」と思ったこともあるが、日本の大学への「失望感」も影響している。

留学から帰国後、リクルートで、大学を相手にしたコンサルティングに携わった。少子化時代の生き残り策を提案する業務だ。ここでは米国での体験を生かせるはずだった。

留学が一気に大衆化したのは円高の80年代後半。米国の大学といえば年齢を問わず学生が出入りし、活発に議論に参加したり教師の採点をしたりする。ビジネススクールや生涯教育、公開講座なども盛んに開かれていた。平川が経験したのも、そんな自由で活発な米国のキャンパスだ。

なぜこうした日米の差が生まれたのか。調べて平川は驚く。「こうした大学の姿は、よく言われているような『米国の伝統』などではなく『マーケティング』の結果だったんです」

20年前、米国は若年人口の減少に見舞われていた。「今の日本と、よく似ていたんです」。つぶれてはいけないと大学自らが変身し、生徒が望む授業を提供。日本の文部科学省のように大学をしばる存在がなく、組織改正が簡単だったことも幸いした。

帰国後、日本の大学を相手にして彼我の差を知る。学部の改廃ひとつが容易ではない。革新的な試みをトップが支持しても教授会の反対でつぶれる。事務方と教授陣がしっくりしないーー。

その結果、優秀な学生がどんどん米国を中心に外国に行く空洞化が進んいると平川は感じる。
「本当にユニークな学生は、日本の大学に収まりきらなくなっているんです。高齢者などの知的好奇心にも応え切れていません」

日本の大学の物足りなさが、自分のビジネスを「後押し」している。そんな皮肉な構図に、どこか割り切れないものを感じながらも、増え続ける需要に応えていかなければ、という使命感は日に日に強くなっている。

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